【ハーモニー – 伊藤計劃】身体が公共性の一つのリソースになる社会

【ハーモニー – 伊藤計劃】身体が公共性の一つのリソースになる社会

 

伊藤計劃の「虐殺器官」に続く長編第二弾。前作の紛争から核戦争に発展し、それを教訓に科学技術による極度な福祉社会が実現された世界が今回の舞台だ。前作との繋がりはほぼないので、どちらを先に読んでも構わない。核戦争よりも前が虐殺器官、核戦争後がハーモニーである。今回も伊藤計劃独特の動物としての人間を捉えた描写が炸裂している。では具体的な内容に入っていこう。

ゼロ年代のSF近未来小説第1位!【虐殺器官 – 伊藤計劃】
タイトルから狂気・スプラッター系の小説なんだなと思い込み敬遠していたが、実際読んでみると全然違う。「虐殺器官」というタイトルに敬遠して今まで読まなかった自分を責めたくなる程、素晴らしい作品だった。タイトルに反してグロテスクな描写はほぼない。では、あらすじからどうぞ。

 

ハーモニーのあらすじ

核戦争後の人類は、「生命こそ最高に価値がある」という生命主義の社会を構築していた。病気や犯罪は根絶され、お互いのことを慈しみあい支え合う社会になっていた。その優しい世界に嫌悪を感じる主人公、世界に反抗するために自殺しようと行動するところから物語は始まる。そんな中、突然「全世界で何千人もの人間が同時に自殺する」という事件が発生。

戦争や病気がなくなった平和な社会、これが現実の社会の延長線上として描かれていて設定状況が驚く程に緻密。前作と同様、壮大な構想の前にただただ圧倒される作品だ。

虐殺器官

 

現代社会への問題提起

本作のテーマは身体と意識だ。「生命こそ最高に価値がある」という考えの元に徹底した社会福祉が構築される。例えば以下の様な過剰とも見れる規制、現実の延長線上と捉えると分からなくもない。

  • メディアでの暴力的描写の規制
  • 酒・煙草の規制
  • 不健康・喧嘩に繋がるあらゆる行為の規制

これらの規制の元、いきついたのは没個性社会だ。個性は失われ、身体は公共性の貴重なリソースとして社会の財産となってしまうのだ。そんな社会に嫌悪を感じた人々の言葉が印象に残る。

 

権力が掌握してるのは、いまや生きることそのもの。そして生きることが引き起こすその展開全部。死っていうのはその権力の限界で、そんな権力から逃れることができる瞬間。

 

「公共性の身体」から脱するために、そんな社会に反抗するために主人公は自殺するのである。

これは現代社会にも通ずる面白いテーマだ。これからの日本は間違いなく人口が減少していく、減少していく労働力の価値が上がるのは間違いない。更に高齢化社会が合わさると、社会福祉の強化や健康を阻害する物への規制強化は避けられない。本作を現代社会に当てはめるとこの様になる。

 

人口減少に伴う人的リソースの価値向上 + 高齢化社会による規制強化 ⇒ 身体が公共性の一つのリソースになる

 

大いにありえる社会ではなかろうか。「身体が公共性の貴重なリソースだ」という意識があるからこそ、大切な生命を傷つけることがない様に心がける。支え合う社会が構築される。しかし、強制的な「支え合う社会」はなんとも居心地が悪い。読んでいて違和感を感じる世界だ。

多少のネタバレになってしまうが、没個性の行き着く先を的確に表現した言葉を読んで貰いたい。人類にとってこれが正解だとは思えない、ではどうすればいい?と考えさせてくれる作品だ。

 

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わたし

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